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「NASCARレースエンジンをGRスープラに搭載!?」斎藤太吾の新戦力を徹底解剖!

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常用10000rpmの究極自然吸気V8で挑む!

NASCARカップシリーズエンジンの潜在能力とは?

2024年はD1GP、FDJと国内の2大ドリフトカテゴリーに参戦した斎藤大吾選手。D1GPでは追走において決勝戦進出率6割、うち優勝4回という輝かしい成績を残したことが記憶に新しいが、他方FDJにおいては最終戦岡山で常用10000rpmを誇るNASCAR向けのTRD製5.8L・V8エンジンを搭載したGRスープラを実戦投入したことが大きな話題となった。

アメリカの伝統的な人気モータースポーツとして知られるNASCARのトップカテゴリーは3つ存在する。頂点にNASCARカップシリーズ、そしてエクスフィニティシリーズ、クラフツマントラックシリーズ…と下位カテゴリーが続いていく。そんな中、ドリフトのような他カテゴリーで見かける“NASCARのエンジンをスワップした”マシンというのは、一般的に下位カテゴリーで使われた中古エンジンをベースにしたものがほとんどだったそうだ。

「一番上のカップシリーズのエンジンって全部がメーカーからのリース品で、エンジンビルダーからラウンドごとにチームに貸し出されるため、絶対に市場に出回らないようになっているんです」と斎藤選手。

その理由は自動車メーカーが覇権を争うトップカテゴリゆえ、ノウハウの流出を防ぐことにある。シングルカムからプッシュロッド、ロッカーアームを介し、作動パーツが極端に多い条件のなかで10000rpmまでを常用できるカップシリーズのエンジンは、まさにブラックボックス。それを専門に手掛けるエンジンビルダーによる技術の粋を集めた結晶なのだ。

そして、斎藤選手が今季最終戦で用いたエンジンは、アメリカのとあるエンジンビルダーに特注でオーダーした『NASCARカップシリーズで供給されるものと、全く遜色ないエンジン』なのだという。

オーダーが完了して組み立てが終わり、アッセンブリーのエンジンが日本に到着して初めてオーナーに使用パーツなどが明かされるという素性ゆえ、ここでも細かい仕様などを明かすことはできないが、358キュービックインチ(約5866cc)のOHV・V8・NAエンジンというパッケージは下位カテゴリーと同一なものの、ショートブロックからプッシュロッド、バルブスプリングといった全てのパーツがさらなる高回転、高出力化に対応できるようにバランスを考え組まれている。

「分かりやすい違いは下のカテゴリーは9000rpmまで、カップシリーズは10000rpmもOKという感じですね。その代わり『中身は何もイジるな』と言われて、例えば『もう少しだけ回したいからバルブスプリングをもっと強く…なんてことも絶対にするな』とビルダーから念を押されました。エンジントラブルが発生しても現場で修理はできず、エンジンごと交換してアメリカに送るしかない。だから大会で使うならスペアエンジンを丸ごと1基用意しないとダメで、それがついに間に合ったのが最終戦だったんです」。

レギュレーションの変更があった2022年から始まった「NextGenカー」と呼ばれる第7世代のカップカーシリーズの、カムリに搭載されるエンジンがベース。358キュービックインチ(約5866cc)のOHV・V8・NAでNASCARではコースにより径の違うリストリクターが使用される。TRD製でフェーズ14と呼ばれる型式に当たるそうだ。

燃料供給について下位カテゴリーではキャブレター仕様なのに対して、現在のカップカーではインジェクションを採用しているのが大きな違いとなる。それゆえインマニの形状が大きく異なるほか、こちらにはドライショット用のNOS噴射口が後付けされている。燃料はE15から国内で手に入りやすいE85に変更。

前代のフェーズ9では点火システムにデスビを採用していたのも異なり、フェーズ14からはダイレクトイグニッションが採用された。ECUはリンクG5による制御を行なっている。

エンジンはエキマニまで含めたアッセンブリーでの提供となる。右ハンドルと前側に位置するラックとの兼ね合いで1本だけレイアウトの変更が必要だったとのことだが、集合までの太さの変化もかなり細かい設定がされており、それを活かすため最小限の干渉に収める苦労もあったそうだ。

トランスミッションはサムソナスの5速を合わせる。フライホイールやクラッチもビルダーから指定され、4プレートのものを使用している。エンジン本体はGRスープラより短くなり、バルクヘッドの加工も不要で済んだ。

ドライサンプもNASCARの標準仕様でタンクはリヤウインドウ下の隔壁にレイアウト。オルタネーターはJZX100用をブラケットをワンオフして使用している。ワイズファブのアングルキットに合わせ、ステアリングラックは30セルシオ用を移植。

カーボンフレームを使用したK&N製のラージエアフィルターを採用。インテークがボンネットから露出しないNASCARよりもドリフトらしい見た目にインパクトのあるチョイスだ。

座席後部に隔壁をレイアウトし、トランク内にドライサンプ用のタンク、燃料類、冷却用のコアを収める。ラジエターと並べてオイルクーラーまでもリヤに置いているのは斎藤選手ならでは。

「ずっとNASCARには憧れがあって、今までTRDも含めて色々なメーカーのNASCARエンジンを試してきたんです。高回転まで回るエンジンは楽しいし、なによりV8は音がとても大好きで。だけど、正直言って今のドリフトじゃNASCARのエンジンはそのままだと全然パワー不足なんです。実は、このカップシリーズのエンジンでもシャシダイで測ると750ps。3.4Lの2JZターボならすぐに1000psが出せるから、ぶっちゃけ2JZの方が簡単。だから、今のドリフト勝つことだけを考えたらシルビアと2JZターボが一番やりやすくて近道だと思うんですけど、それよりも僕にとっては乗っていて楽しいか、見ているお客さんも喜んでくれるかというのが大事なんです」。

「下のカテゴリーのエンジンと何より違うと思ったのが、超高回転仕様のカムのプロフィールでした。オーバーラップが凄まじいから、3500~4000rpmは失火してエンジンがバラついてまともにドリフトできないくらい。全域でNOSを吹いて1000psを超えるくらいまでピークパワーが上がりましたけど、失火するところもだいぶ改善されて、結果的にNOSを吹いて低回転が使えるようになる意味が大きかったと思います。本当はビルダーからはパーツを勝手に替えるなと言われたのと一緒に『NOSも吹くなよ』と言われてたんですけどね(笑) だけど、今までも普通のNASCARエンジンにはNOSを吹いて使っていて大丈夫だったし、それよりも部品も精度も違う信頼性の高いカップシリーズのものだからOKだろうと思って、勝手にやっちゃってます」。

「最初はロマンのために、コスパとか度外視でやってみたことです。だけど、本当に良い感じの仕上がりなんで2025年は期待してもらって良いかもしれません」。

特注スペックのエンジンを2基用意してまで構築された斎藤太吾選手のニューマシン。脱定番を図った競技用ドリフトマシンとして、今年大注目の一台と言えよう。

「「NASCARレースエンジンをGRスープラに搭載!?」斎藤太吾の新戦力を徹底解剖!」の1枚めの画像

●取材協力:ファットファイブレーシング 埼玉県所沢市岩岡町681-4

「これが斎藤太吾流のR32GT-R魔改造スペックだ!」フルチューン2JZエンジンを超フロントミッドマウント化

【関連リンク】
ファットファイブレーシング
http://www.fatfiveracing.jp/


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